ブッポウソウという名前を聞いたことがありますか?
夜の森で響く鳴き声から名付けられたとされるこの鳥には、実は驚くような由来があります。
ブッポウソウとはどんな鳥で、どんな生息地に暮らしているのでしょうか。
そしてなぜ「ブッポウソウ」と呼ばれるようになったのか——その背景には、日本の自然や文化と深く関わる物語があります。
この記事では、ブッポウソウの生態や習性、幼鳥や雛の成長、絶滅危惧種としての現状までをわかりやすく解説します。
青く輝く翼の裏に隠された“由来”の真実を、一緒に探っていきましょう。
- ブッポウソウの生態や鳴き声の秘密を知りたい方
- 名前の由来や歴史を深く学びたい方
- 絶滅危惧種の保護や自然環境に関心がある方
- 鳥の観察や写真撮影が好きな方
ブッポウソウ 生息地 由来を探る ― 森と文化がつないだ鳥の物語

ブッポウソウとは
ブッポウソウは、夏になると日本へ渡ってくる夏鳥で、主に本州、四国、九州で局地的に繁殖します。
環境省や各地の自治体の調査では、その繁殖地は非常に限られており、近年も個体数の回復が十分とは言えません。
学名は Eurystomus orientalis で、ブッポウソウ科ブッポウソウ属に属しています。
世界ではアジア東部から東南アジア、インドネシア、オーストラリア北部まで広く分布し、日本で見られるのはその亜種「アオビタイブッポウソウ(cyanocollis)」です。
日本での繁殖期は5月から7月ごろで、秋の初めには越冬地である東南アジアへと渡ります。
越冬地の調査では、ボルネオ島やタイ北部などで冬を越す個体が確認されており、その渡りの距離は数千キロにおよぶといわれています。
また、ブッポウソウには強い帰巣性(同じ場所に戻る性質)があり、前年と同じ巣箱や木の穴を使う個体が多く観察されています。
このため、一度営巣が成功した地域は、毎年同じペアが戻ってくることが多く、地域保全の取り組みと密接に結びついています。
日本国内では、長野県、岐阜県、岡山県などが主な繁殖地として知られていますが、どこでも見られる鳥ではありません。
それだけに、ブッポウソウが飛来する地域は「豊かな森の証」とされ、保護活動の象徴にもなっています。
ブッポウソウ 特徴
ブッポウソウの体長は約29〜30センチで、翼を広げると70センチ前後に達します。
全体は青緑色の羽で覆われ、光の角度によっては瑠璃(るり)色や青紫色に輝く金属光沢を放ちます。
くちばしと脚は鮮やかな赤橙色で、木々の緑の中でも強く目立ちます。
頭部はやや黒みを帯び、喉のあたりに青い帯が見られる個体もあります。
翼には白い斑(はん)があり、飛翔中にはそのコントラストが際立ちます。
この斑は観察時に重要な識別点となり、他の鳥との区別に役立ちます。
体重は150〜170グラムほどで、筋肉質な体を持ち、滑翔や直線飛行が得意です。
飛びながら昆虫を捕らえる「空中採餌(くうちゅうさいじ)」という狩り方を行い、主にトンボやカナブンなどの大型昆虫を捕まえます。
一度獲物を捕らえると、再び元の枝に戻って休み、再び飛び出すという動作を繰り返します。
オスとメスの色の差はほとんどなく、外見では判別が難しいのも特徴です。
ブッポウソウ 鳴き声
ブッポウソウという名前から「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥だと思われがちですが、実際にはまったく異なる鳴き声をしています。
本当の鳴き声は「ゲッゲッ」「グェッ」「ゲゲゲー」といった低く濁った音で、繁殖期に縄張りを主張するために発せられます。
飛びながら鳴くこともあり、その声は森の奥まで響きます。
一方で、かつて人々が夜に「ブッポウソウ」と聞いた声は、実はフクロウの仲間であるコノハズクの鳴き声でした。
江戸時代にはこの誤解が広く信じられ、「ブッポウソウの声を聞くと吉兆」とまで言われていました。
この誤認は20世紀半ば、録音調査と野外観察によってようやく訂正され、コノハズクの声が本当の「仏法僧」だったと確認されました。
それでもなお、「ブッポウソウ」という名は日本語の中に深く定着し、鳥の象徴的な呼び名として残っています。
現代では、ブッポウソウの本来の鳴き声を録音で聞くことができ、実際には迫力のある短い鳴き声であることがわかります。
ブッポウソウ 習性

ブッポウソウは、主に木の高い位置にとまり、周囲を見渡しながら昆虫を狙う習性があります。
その飛び出しと戻る行動を繰り返す「空中採餌(くうちゅうさいじ)」という方法で、飛んできた虫を捕らえ、もとの枝に戻って食べることが多いです。
獲物としては、トンボ、セミ、カナブン、コガネムシなどの大型昆虫が中心で、これらを効率的に捕るために敏捷な飛行能力を備えています。
給餌行動の時間分布に関する調査では、親鳥は夕暮れ近く、薄明の時間帯に餌を集中的に運ぶことが明らかになっています。
この時間帯は昆虫の活動(特にコガネムシ類など夜行性または薄暮に飛び立つもの)が活発になるため、それに合わせた適応行動だと考えられています。
また、雛の胃の中を調べたところ、小石や貝殻、プラスチック片などが混入しており、これを「碾き臼(ひきうす)」として昆虫の硬い殻を擦り潰す助けにしている可能性も示唆されています。
ブッポウソウは縄張りを持ち、繁殖期にはつがいで活動範囲を持ち、他の個体を追い払うなわばり行動が見られます。
さらに、観察記録からは、同じ場所で複数年にわたって営巣を続ける個体があることが確認されており、環境が保たれている場所では高い帰巣性を示しています。
ブッポウソウ 生息地
ブッポウソウは、本州、四国、九州を中心に夏鳥として飛来し、局地的な繁殖地を形成します。
生息環境としては、山地から低山地の森、渓谷沿いや里山に隣接する林などを好み、大木や古木、樹洞(木の穴)が残る森を重視します。
スギ・ヒノキの人工林だけではなく、広葉樹を含む混交林や社寺林(神社・寺院の境内林)で繁殖する例も多く報告されています。
実際、社寺林や庭園林が繁殖場所として残っている地域が観察地として注目されており、人工林化の影響を受けにくい場所が鍵となります。
営巣場所としては、自然の樹洞、キツツキによる古巣、木製電柱の穴、橋梁・建造物の隙間などが使われることがあります。
特にかつては木製電柱にできた穴が営巣場所として使われていましたが、現在ではコンクリート電柱への更新が進み、その機会が減少しています。
広島県北広島町では、巣箱設置による保全試みがあり、これにより繁殖個体数の回復傾向も報告されています。
分布域は狭く、県によってはすでに確認例が途絶えている地域もあります。
たとえば、京都府内ではかつて繁殖例があっても、近年は営巣が確認されなくなっているとの記録があります。
ブッポウソウ 由来
ブッポウソウという名前の由来は、長い年月を経て人々の誤解と自然観とが重なって生まれたものです。
古来、夜の森で「ブッ・ポウ・ソウ」と聞こえる鳴き声が響くという記録があり、この声の主がこの青い鳥だと考えられていました。
仏教の三宝(仏・法・僧)を示す言葉「仏法僧(ぶっぽうそう)」をそのまま鳥の名としてあて、「鳴く鳥=仏法僧」として神聖視・象徴化されたのです。
しかし20世紀になって、録音記録や野外調査により、この「声の主」がフクロウの仲間コノハズクであることが判明しました。
このため、青い鳥は「姿の仏法僧」と呼ばれ、コノハズクが「声の仏法僧」と区別されるようになりました。
この名前の由来は、誤解に基づくものですが、それが長い文化・信仰の歴史とともに定着し、俳句や和歌、地方伝承などにも深く根ざしています。
たとえば、松尾芭蕉などの古典作品には「仏法僧の声」という季語や記述が散見され、鳥と自然の神秘性を象徴する言葉として扱われてきました。
ブッポウソウ 生息地 由来から見る未来 ― 絶滅危惧種としての現実

ブッポウソウ 幼鳥
ブッポウソウの幼鳥は、成鳥に比べて全体的に羽色が淡く、青緑というよりも灰色がかった緑色をしています。
羽毛の光沢もまだ少なく、くちばしの赤色もやや薄いことが特徴です。
巣立ち直後の幼鳥は飛行能力が未熟で、木の枝の近くを短い距離だけ移動しながら、親鳥のもとで捕食や飛行の練習を繰り返します。
巣立ちは孵化(ふか)から約25日後に行われ、その後も1〜2週間は親鳥の世話を受けます。
観察例によれば、幼鳥の多くは巣立ち後も親鳥の行動を真似しながら学習し、狩りのタイミングや鳴き声の使い方などもこの時期に身につけます。
飛翔訓練の初期には地面に落下するリスクが高く、天敵に狙われやすいため、親鳥が近くで見守ることが多いです。
生存率は環境によって大きく異なり、適切な巣箱や安全な林が確保されている地域では巣立ち成功率が7割を超える例も報告されています。
幼鳥が無事に巣立つことは、その地域の生態系が健全である証拠とも言えます。
ブッポウソウ 食べ物
ブッポウソウの食べ物は、主に昆虫類で構成されています。
特にトンボ、カナブン、コガネムシ、バッタ、セミなど、体の大きな飛翔性の昆虫を好んで捕食します。
その狩り方は非常に特徴的で、木の高い枝先にとまり、周囲を見渡しながら飛んでくる獲物を狙い、素早く飛び出して空中で口ばしで捕らえる「空中採餌(くうちゅうさいじ)」という方法をとります。
この行動は一瞬の判断と飛行技術を要し、狩りを終えると再び同じ枝に戻って獲物を食べるという独特なスタイルを繰り返します。
捕食対象の多くは、繁殖期に活動が盛んな昆虫類です。
そのため、ブッポウソウが森にやってくる時期と昆虫の発生時期が重なっており、彼らの渡りのタイミングにも関係していると考えられています。
また、巣立ち期の幼鳥や雛には、親鳥が捕まえた昆虫を小さく砕いて与えるため、栄養価の高い昆虫が成長に欠かせません。
親鳥は1日に数十回もの給餌を行い、巣内の温度や湿度にも気を配りながら、子育てを続けます。
ブッポウソウは昆虫食中心ですが、まれにクモやムカデなどの節足動物を捕食することもあります。
さらに、乾燥した地域ではシロアリや甲虫の幼虫を狙う例も報告されており、環境に応じて食性を柔軟に変える能力を持っています。
これらの多様な食性は、季節や生息地の変化に対応するための適応進化の一例とされています。
農薬の使用や昆虫の減少は、ブッポウソウの生存に直接的な影響を与えます。
餌となる大型昆虫が減少すると、繁殖成功率が下がり、幼鳥の生存率も低下するため、農薬使用の少ない自然環境が重要です。
このため、保護地域では化学薬品の制限や、有機的な森林管理が推奨されています。
ブッポウソウ 種類
ブッポウソウは、アジアからオーストラリアまで広く分布する鳥であり、地域によって姿や体色が少しずつ異なるいくつかの亜種が知られています。
日本で見られるブッポウソウは「アオビタイブッポウソウ」と呼ばれる東アジア系の亜種で、中国南部や朝鮮半島から日本へ渡ってきます。
この亜種は首元に青い帯のような模様があり、全体的に緑がかった青い羽をもつのが特徴です。
また、オーストラリアや東南アジアにも近縁のブッポウソウが生息しており、それぞれ地域ごとに少し違った姿をしています。
たとえば、インドやスリランカに分布するブッポウソウは体の色がやや明るく、喉のあたりが紫がかっています。
東南アジアの島々に暮らす個体は全体的に羽の光沢が強く、くちばしも太めです。
一方、オーストラリア方面に生息するグループは「オオブッポウソウ」とも呼ばれ、体がやや大きく、飛翔力に優れています。
このように、ブッポウソウ属の仲間は、同じような姿をしていながらも、環境に合わせて細かく形質が変化しているのです。
日本のブッポウソウは、こうした広い分布の中でも最も北まで渡る個体群にあたります。
そのため、春と秋には長距離の渡りを行い、繁殖と越冬を繰り返すライフサイクルをもっています。
渡りの途中で休息する場所(中継地)も生存に欠かせない要素であり、東アジア全体の生態系が連動して彼らを支えています。
つまり、ブッポウソウの種類を知ることは、この鳥がどのように進化し、地球規模の環境に適応してきたかを理解する手がかりでもあります。
見た目の違いだけでなく、渡りの距離や鳴き声のパターンにも地域差があることが分かっており、専門家の間では新しい分類研究も進められています。
今後の研究で、これまで同一種とされてきたブッポウソウの中から新しい独立種が認められる可能性もあります。
ブッポウソウ 寿命

ブッポウソウの寿命は、野生ではおよそ7〜10年ほどといわれています。
ただし、環境条件が良好な地域では、15年以上生きた例も確認されています。
寿命を左右する主な要因は、気候変動・餌の減少・営巣環境の喪失など、人間活動に関連するものが多いです。
天敵としては、カラスやヘビ、タカなどが知られており、とくに雛や巣立ち直後の幼鳥が狙われやすいです。
繁殖期の失敗が続くと、個体数の回復に時間がかかるため、親鳥の生存率と繁殖成功率が寿命全体に大きく影響します。
一方、人工巣箱を活用した保護活動が進む地域では、成鳥の定着率が高まり、毎年同じペアが帰ってくる「帰巣行動」も多く見られます。
同じ場所で7年、8年と連続して繁殖を行うペアも確認されており、これは健康状態と環境の安定が寿命に直結していることを示しています。
また、ブッポウソウは長距離を渡る鳥の中では比較的寿命が長い部類に入り、渡りの体力を支える強い翼と筋肉を持ちます。
そのため、同じ個体が日本と東南アジアの間を10年以上にわたり往復している記録もあります。
ブッポウソウ 歴史
ブッポウソウは、古くから日本の文化や信仰と深く関わってきた鳥です。
平安時代の文献にはすでに「仏法僧」という言葉が見られ、その声を聞くことが吉兆(きっちょう)とされていました。
この「仏・法・僧」は仏教の三つの宝を意味し、人々は夜の森に響く声を神聖なものと考えていたのです。
当時、人々は夜に聞こえる「ブッポウソウ」という鳴き声の主をこの青い鳥だと信じていました。
しかし実際には、声の正体はフクロウの仲間のコノハズクであり、20世紀に入ってから録音調査によって誤認が明らかになりました。
それでも、この鳥の名は文化の中に深く根づき、俳句や和歌では「仏法僧の声」が夏の季語として使われるようになりました。
「仏法僧や 森に月影 澄み渡る」といった句には、人が自然に抱いてきた畏敬(いけい)の念が感じられます。
近代以降は、学術的な分類や音声分析によって正確な情報が整理され、ブッポウソウの名が鳥学的にも定着しました。
また、各地で町の鳥として指定され、保護活動の象徴にもなっています。
たとえば、山梨県身延町や岐阜県下呂市では町鳥としてブッポウソウが選ばれ、学校や地域が一体となった保全活動が続けられています。
ブッポウソウ 絶滅危惧種
ブッポウソウは、環境省のレッドリスト(2024年改訂版)で「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」に分類されています。
これは、将来的に絶滅の危険が高い種に与えられる区分で、個体数の減少傾向が明確であることを意味します。
主な原因は、繁殖環境の悪化です。
古木の伐採により巣穴となる樹洞(きどう)が減り、ブッポウソウが営巣できる場所が限られています。
また、農薬の使用による昆虫の減少も深刻で、餌不足が繁殖の成功率を下げる一因になっています。
さらに、温暖化によって渡りの時期や繁殖開始のタイミングがずれる傾向が見られ、気候リズムの乱れも脅威となっています。
こうした要因が重なり、地域によっては以前より観察個体数が半減している場所もあります。
一方で、巣箱の設置や地域ぐるみの保護活動によって、回復傾向が見られる地域もあります。
長野県、岐阜県、岡山県などでは、地元の学校や自治体が連携し、巣箱を設置・モニタリングする取り組みが続いています。
その結果、繁殖ペア数が安定し、幼鳥の巣立ち成功率も上昇しています。
ブッポウソウ 生息地 由来を深く理解するための総括
- ブッポウソウは日本では夏鳥として渡来し、本州・四国・九州の一部で繁殖する。帰巣性が強く、毎年同じ森に戻る習性を持つ。
- 学名はアジア全域に広がるブッポウソウ属に属し、日本では東アジア系の「アオビタイブッポウソウ」が確認されている。
- 光沢のある青緑色の羽と赤いくちばしをもち、「森の宝石」と呼ばれるほど美しい姿が特徴。飛びながら昆虫を捕らえる空中採餌が得意。
- 鳴き声は実際には「ゲッゲッ」と濁った音で、古くはフクロウの仲間「コノハズク」の声をブッポウソウの声と誤解していた。
- 習性としては高木にとまり、トンボやカナブンなどの大型昆虫を空中で捕らえて食べる。食性の多様さは季節変化への適応を示している。
- 生息地は古木の多い森や社寺林など、自然度の高い混交林に限られ、人工林の拡大で営巣場所が減少している。
- 名前の由来は「仏・法・僧」という仏教語から来ており、声の神秘性が信仰や文学に影響を与えてきた。
- 種類は世界で複数の亜種に分かれ、日本の個体群はその中でも最も北に分布する。地域ごとの羽色や体格の違いが研究されている。
- 幼鳥や巣立ち個体の生存率は、巣箱設置や餌資源の豊かさに大きく左右される。地域保全が繁殖成功に直結する。
- 寿命は野生で7〜10年、長寿個体では15年を超える例もある。安全な営巣環境が長生きの鍵。
- 平安時代から現代まで文化的象徴として語られ、町の鳥に指定する地域も多く、人と自然の関係を映す存在になっている。
- 絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されており、古木の減少や農薬による餌不足が大きな脅威となっている。
- 巣箱設置や地域ぐるみの保護活動が成果を上げ、繁殖ペア数や巣立ち成功率の回復が確認されている。
- ブッポウソウの保全は単なる種の保護にとどまらず、森林の多様性と文化の継承を守る取り組みでもある。