ふわふわの毛に長い舌――どこか不思議な見た目の「フクロアリクイ」。
名前の通りアリクイに似ていますが、実はまったく別の動物です。
オーストラリアにしかいない珍しい有袋類(ゆうたくるい)で、絶滅の危機にもあります。
この記事では、フクロアリクイの特徴、生息地、寿命、食べ物、赤ちゃんの育て方などをわかりやすく解説します。
「フクロアリクイとは何なのか?」「なぜ珍しいのか?」を、専門家の視点から丁寧にひも解いていきましょう。
- フクロアリクイのことを初めて知った方
- アリクイとの違いが気になる方
- オーストラリアの珍しい動物が好きな方
- 動物園で会える珍獣を探している方
フクロアリクイとは?特徴や生息地をわかりやすく紹介

フクロアリクイとは
フクロアリクイ(学名:Myrmecobius fasciatus)は、オーストラリア南西部にのみ生息する小型の有袋類(ゆうたくるい)で、英語では「ナンバット(Numbat)」と呼ばれます。西オーストラリア州の州のシンボル動物にも指定されており、文化面でも象徴的な存在です。
名前に「アリクイ」とついていますが、実際にはカンガルーやコアラに近い仲間で、アリクイとは進化の系統がまったく異なります。体長は約20〜30センチ、尾を含めると40センチほど、体重は500〜700グラムと非常に小柄です。
背中には白い縞模様(しまもよう)があり、この模様は個体ごとにわずかに違います。赤褐色の毛並みと相まって美しい外見をしており、研究者が個体識別のために模様を記録することもあります。
フクロアリクイは昼行性の動物で、夜行性が多いオーストラリアの哺乳類の中では珍しい存在です。主に地面を歩きながらシロアリを探し、1日あたり2万匹以上を食べるといわれています。
性格はおだやかで、基本的に単独で行動します。繁殖期は2〜3月ごろで、メスは一度に3〜4匹の赤ちゃんを産みます。オーストラリア環境省(DBCA)の報告によると、野生個体の数は減少傾向にありますが、保護活動によって安定化の兆しが見られます。
フクロアリクイの特徴
フクロアリクイの最も特徴的な点は、長くて細い舌と鋭い嗅覚です。舌の長さは約10センチに達し、ねばねばした唾液(だえき)で覆われています。
この舌を高速で出し入れしながらシロアリを捕らえる姿は、まさに自然界が生み出した巧妙な捕食方法といえるでしょう。舌はあごの奥深くまで続いており、筋肉で自在に動かせるよう進化しています。
もう一つの特徴は、有袋類でありながらメスに明確な「袋(フクロ)」がないことです。代わりに、乳首の周囲に皮膚のたるみがあり、赤ちゃんはそこにしがみつくようにして育ちます。
歯は約50本あり、アリクイにはない「かみ砕く」能力を持っています。視力は弱いですが、嗅覚は非常に発達しており、地中深くに潜むシロアリの巣を正確に見つけ出すことができます。
さらに、前足の爪は硬い地面を掘るのに適した形状をしており、尾はふさふさしていて体温維持や外敵からのカモフラージュにも役立ちます。毛には断熱性があり、気温差の激しい環境でも体温を一定に保つことができます。
フクロアリクイの生息地
フクロアリクイは、かつてオーストラリアの広範囲に分布していましたが、現在では西オーストラリア州南西部に限定されています。主な生息地は「ドライアンドラ森林保護区」や「パート森林国立公園」などで、ユーカリ林に囲まれた乾燥地帯が中心です。昼間は地上で活動し、夜は倒木や地面の割れ目に潜り込んで休みます。
20世紀初頭、外来種のキツネやイエネコによる捕食が原因で個体数が激減しました。IUCN(国際自然保護連合)の2023年の評価でも「絶滅危惧種(Endangered)」に分類されています。
1970年代からは保護活動が始まり、「プロジェクト・ヌンバット(Project Numbat)」が中心となって外敵の駆除、フェンス付き保護区の整備、人工繁殖と再導入(さいどうにゅう)が行われています。
保護区では、捕食者の侵入を防ぐために長大な電気フェンスが設置され、衛星追跡による個体モニタリングも進められています。また、森林火災の多い地域では「コントロールド・バーニング(計画的火入れ)」によって生息地の維持が図られています。
フクロアリクイの舌

フクロアリクイの最大の特徴は、体の約4分の1にも達する長い舌です。長さはおよそ10センチ、非常に細く柔軟で、表面は粘着性の唾液(だえき)で覆われています。この舌を1秒間に数回という高速で出し入れしながら、地中のシロアリを絡め取って食べるのです。
舌の根元はあごの奥深くまでつながっており、筋肉によって自在に動かせる構造になっています。この仕組みはアリクイやセンザンコウにも見られますが、両者に近縁関係はなく、同じ環境に適応した結果として似た特徴が進化した「収斂進化(しゅうれんしんか)」の一例です。
一日の摂取量はなんと2万匹以上。ねばり気のある唾液が乾燥地帯でも効果を失わないよう進化しており、シロアリを効率的に捕まえられるようになっています。舌の動きは非常に正確で、観察映像ではわずか数秒で数百匹を捕食する様子が確認されています。
フクロアリクイの習性
フクロアリクイは昼間に活動する「昼行性」の動物です。オーストラリアの有袋類の多くは夜行性ですが、彼らはあえて昼を選びました。これは、夜行性の捕食者や他の有袋類と競合しないための生存戦略と考えられています。
彼らは主に午前中と夕方に活発に動き回り、地上をくまなく歩きながら嗅覚でシロアリの巣を探します。シロアリの匂いを感知すると、前足の強い爪で地面を掘り、舌を差し込んで捕食します。気温が高くなる正午前後は木陰や巣穴に隠れ、体温を下げながら休みます。
夜になると倒木の中や地面の割れ目に入って休息し、外敵から身を守ります。フクロアリクイは基本的に単独行動を好み、縄張り意識が強い動物です。繁殖期(主に2〜3月)だけはオスがメスを探して広い範囲を移動することが知られています。
性格はおだやかで、他の個体と争うことはほとんどありません。環境に適応した生活リズムを保ちながら、限られた資源の中で静かに生きるその姿は、まさに乾燥地帯の知恵を体現した存在です。
フクロアリクイとアリクイの違い
名前が似ているため混同されがちですが、フクロアリクイとアリクイは進化上まったく別の動物です。アリクイは南アメリカ原産で、胎生の「真獣類(しんじゅうるい)」に属します。一方、フクロアリクイはオーストラリア固有の「有袋類」で、カンガルーやコアラに近い仲間です。
両者に共通しているのは、アリやシロアリを食べるという食性のみ。どちらも長い舌と細長い鼻を持ちますが、これは環境への適応の結果であり、「収斂進化」によって偶然似た姿になっただけです。つまり、アリクイとフクロアリクイは同じ目的をもって別の道を歩んだ“進化のそっくりさん”なのです。
さらに、歯にも大きな違いがあります。アリクイには歯がまったくありませんが、フクロアリクイには約50本の小さな歯があり、捕らえた昆虫をかみ砕くことができます。また、アリクイは夜行性で湿った熱帯林に住むのに対し、フクロアリクイは昼行性で乾燥した森林に暮らします。
フクロアリクイの生態と暮らしを詳しく知ろう

フクロアリクイの食べ物
フクロアリクイの主食はシロアリです。研究によると、1日におよそ2万匹以上のシロアリを食べるとされています。シロアリを探す際には鋭い嗅覚を頼りにし、地面を歩きながら巣の位置を正確に嗅ぎ分けます。巣を見つけると、前足の強い爪で地面を掘り、長く粘着性のある舌を素早く出し入れして捕食します。この動作を繰り返すことで、乾燥地帯でも効率的にエネルギーを確保できるのです。
主食はあくまでシロアリですが、環境によってはアリや小さな昆虫を食べることもあります。彼らの舌には特殊なたんぱく質を含む粘液が分泌され、乾燥した環境でも粘着力を維持するように進化しています。これは、砂埃が多い地域でも舌の機能を保つための適応です。
一方で、フクロアリクイの消化器官は短く、植物や肉を分解する構造を持たないため、食性は非常に限定的です。この極端な専門性が、彼らを環境変化に弱い存在にしています。もしシロアリの数が減少すれば、彼らも生きていけません。
フクロアリクイの寿命
フクロアリクイの寿命は、野生で約5〜6年、飼育下では最大で11年ほどとされています。小型の哺乳類にしては比較的長寿で、これは代謝が穏やかで、活動時間が限られていることが関係しています。DBCA(西オーストラリア州環境局)の報告によると、保護区内で生まれた個体は野生個体よりも長生きする傾向があるそうです。
一方、野生下では常に危険と隣り合わせです。外来種のキツネやイエネコに襲われるリスクが高く、また森林火災や乾燥による食料不足が命を脅かします。特に乾燥期にはシロアリの活動が減り、飢えによる死亡率が上昇します。これらの環境的要因が、野生での寿命を短くしている主な原因です。
保護区や動物園などでは、天敵や環境ストレスが少ないため寿命が延びる傾向にあります。温度や湿度が安定した環境では、食事量や活動量を一定に保つことができ、健康状態も良好に保たれます。
フクロアリクイの赤ちゃん
フクロアリクイの繁殖期は主に2〜3月で、メスは一度の出産で3〜4匹の赤ちゃんを産みます。生まれたばかりの赤ちゃんは体長2センチほどで、毛がなく目も見えません。多くの有袋類のように袋の中で育つわけではなく、母親のおなかの皮膚のたるみにしがみついて育ちます。このため、母親は常に子どもを守るような姿勢で行動します。
およそ6か月間は母親の体の下でミルクを飲みながら成長し、その後は巣穴でさらに数か月を過ごします。約9か月で自立できるようになり、巣の外に出て自分でシロアリを探し始めます。赤ちゃんの背中には、生後4か月ごろから特徴的な縞模様が現れ、徐々に成獣と同じ毛並みへと変化します。
母親は非常に献身的で、危険を察知すると子どもを抱えて巣穴に避難します。外敵から守るため、巣を複数用意しておくことも知られています。Project Numbatの報告では、保護区での繁殖成功率が年々向上しており、人工繁殖でも健康な個体が育っています。
フクロアリクイの動物園情報

フクロアリクイは、飼育が非常に難しい動物として知られています。2025年現在、世界で飼育と繁殖に成功しているのはオーストラリアの「パース動物園(Perth Zoo)」のみです。日本国内を含む他国の動物園ではまだ展示例がなく、実物を見られる機会は非常に限られています。
パース動物園では長年にわたり、野生復帰を目的とした繁殖プログラムを運営しています。このプログラムでは、人工繁殖で育てた個体を保護区に再導入(さいどうにゅう)し、個体数の維持を図っています。飼育環境は自然のユーカリ林を再現しており、温度や湿度、採食リズムまで厳密に管理されています。
飼育が難しい理由は、フクロアリクイがシロアリに強く依存しているためです。人工環境下では、シロアリの安定供給や代替食の開発が不可欠であり、パース動物園では長年の研究によって人工餌を調整し、栄養バランスを保っています。また、ストレスに敏感な性質のため、環境変化を最小限に抑える工夫が求められます。
さらに、同園では教育活動にも力を入れています。来園者がフクロアリクイの生態や保護活動を学べる展示を設け、地元の学校や研究機関と連携して「生物多様性教育」を推進しています。
フクロアリクイの絶滅危惧種について
フクロアリクイは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「絶滅危惧種(Endangered)」に分類されています。かつてはオーストラリア全域に広く生息していましたが、現在は西オーストラリア州南西部のみに限定されています。その最大の原因は、外来捕食者であるキツネやイエネコによる被害と、森林伐採による生息地の喪失です。
ヨーロッパ人が入植した19世紀以降、これらの外来種はオーストラリアの生態系に深刻な影響を与えました。特に夜行性の捕食者であるキツネは、昼間巣で休むフクロアリクイを襲うことが多く、個体数の減少に拍車をかけました。加えて、森林火災の増加や気候変動による乾燥化も、シロアリの減少を通じて間接的に彼らを脅かしています。
こうした状況に対抗するため、政府と民間団体が協力して「プロジェクト・ヌンバット(Project Numbat)」を推進しています。この活動では、外来種の駆除、フェンス付き保護区の設置、遺伝子多様性を維持する繁殖管理などが行われています。衛星追跡による生息調査も進んでおり、2024年の報告では個体数がわずかに増加している地域も確認されました。
しかし、依然として野生個体は約2000匹前後と少なく、絶滅のリスクは高い状態です。保護団体は「生息地そのものの回復」こそが根本的な解決策だと指摘しています。
フクロアリクイの歴史
フクロアリクイの祖先は、およそ1500万年前の中新世にまでさかのぼるといわれています。化石研究によれば、彼らは有袋類の中でも非常に原始的な特徴を多く残しており、「古代から姿をほとんど変えない動物」として知られています。このため、生物進化の研究でも貴重な存在として位置づけられています。
オーストラリアの先住民アボリジニの文化にも登場しており、古くから「森の守り神」として伝承に描かれてきました。アボリジニの壁画には、背中の縞模様を持つ小型動物として描かれたものがいくつも残されており、彼らが自然との共存を象徴する存在としてフクロアリクイを尊重していたことが分かります。
現代では、西オーストラリア州の州のシンボル動物に指定され、同州の車のナンバープレートや硬貨、切手などにもデザインされています。これは、絶滅危惧にあるこの種の存在を社会的に広く認識してもらうための取り組みの一環でもあります。
また、環境教育の象徴として学校教材や保護ポスターにも登場しており、オーストラリアの子どもたちが自然保護を学ぶきっかけにもなっています。
フクロアリクイの特徴と生態を振り返る総括
- フクロアリクイ(ナンバット)は、オーストラリア南西部のみに生息する珍しい有袋類で、アリクイとは系統的に異なる種である。
- 体長約30センチ前後、背中の白い縞模様とふさふさした尾が特徴で、「オーストラリアの生きた化石」とも呼ばれている。
- 主食はシロアリで、1日に約2万匹以上を捕食する。長い舌と鋭い嗅覚を使い、地中の巣から効率的に獲物を探す。
- 昼行性の生活を送り、乾燥地帯の厳しい環境でも体温を維持できるよう断熱性の高い毛に覆われている。
- メスには明確な袋(フクロ)がなく、赤ちゃんは乳首の周囲の皮膚にしがみついて育つという珍しい繁殖形態をもつ。
- 現在の生息地は「ドライアンドラ森林保護区」や「パート森林国立公園」などの限られた地域で、野生個体は2000匹前後。
- 外来種(キツネやイエネコ)の捕食や森林火災により、IUCNレッドリストで絶滅危惧種(Endangered)に指定されている。
- パース動物園が中心となり、「プロジェクト・ヌンバット」による保護・繁殖・再導入(さいどうにゅう)活動が進められている。
- フクロアリクイは生態系でシロアリの個体数を調整する役割を果たし、「乾燥林のキーストーン種」として重要な存在である。
- 有袋類としては非常に古い系統に属し、約1500万年前からほとんど姿を変えずに現存しているとされる。
- アボリジニ文化では「森を守る精霊」として伝承され、現代では環境保護の象徴としても位置づけられている。
- 種の保全は単なる動物保護ではなく、オーストラリア全体の自然環境を守る活動の一環でもある。
- フクロアリクイの未来を守ることは、生物多様性と生態系バランスを保つための重要な取り組みにつながる。


